2013年10月19日

血液検査の読み方
-ヘモグロビン・エーワンシー(HbA1c)-


以前は空腹時の血糖値しか測らないことが多かった検診で、最近ではHbA1cの測定を始めています。HbA1cは糖尿病を診断する値です

糖尿病では初期には空腹時の血糖値が正常のことが多く、食後の血糖上昇を早期の段階で発見することが出来ませんでした。食後の血糖急上昇は動脈硬化や糖尿病合併症への影響が強いためHbA1c測定の普及により、より早い段階で食事療法を開始し合併症を予防することが可能になります。

というわけで、今回はヘモグロビン・エーワンシー(HbA1c)の話です。

ヘモグロビンは赤血球の中に存在する酸素を運ぶたんぱく質です。大人のヘモグロビンの約97%をしめるHbAβN末端がぶどう糖と結びついたものをHbA1cと呼びます。

ヘモグロビンとぶどう糖の結合は酵素を必要としない化学反応です。血液中のぶどう糖の濃度が高いほど結びつく割合が高くなります。ですから、HbA1cは血液中のぶどう糖の濃度(血糖値)の平均値を反映します。

赤血球の寿命は約120日です。一度出来たHbA1cは安定していて変化しにくいので、血糖値が下がっても新しいヘモグロビンと入れ替わるまではHbA1cがなかなか下がりません。HbA1c値が血糖の変化を反映するまで1~2カ月かかります。ですから、薬や食事療法で血糖値が急激に下がった場合には、HbA1cを目安に薬を調節すると血糖を下げ過ぎることがあります。その場合には毎日の血糖値を測定するのが一番確実です。

HbA1cはあくまで平均値を反映したものですから、血糖値の変動についてはわかりません。ずっと高い方と急上昇急降下を繰り返す方で同じHbA1c値になることがあります。まず入り口としては血糖の平均値を知り、それから血糖の変動幅について注意してみましょう。次回はHbA1cと血糖の変動について、それからHbA1c以外の糖尿病指標についてもう少し詳しく見ていきましょう。

*註:201241日よりHbA1cが国際標準値に切り替わりました。検査結果にNGSPと書いてあれば国際標準値、JDSと書いてあれば以前日本で使用していた値です。NGSPJDSより約0.4%高めですので、以前の結果と比べる時には注意してください。

消化器系総合検査(CDSA2.0)


栄養療法の実践やお手伝いをしていると、胃や腸の状態はとても大切だなと思います。せっかくよいものを食べ、サプリメントで栄養素を摂っても吸収されなければ効果を発揮できません。消化されず腸管内に留まった食べ物が発酵などの変化を経て害を及ぼすことさえあります。

そこで、消化管の状態をもっと正確に知りたい! という欲求が出てきます。症状から推定するだけでは物足りないという方のために有用な検査があります。ひめのともみクリニックで採用しているのはGenova Diagnostics社の消化器系総合検査(CDSA 2.0)です。

便の検査なので自宅で指定容器に入れて持参いただく方式です。

この検査では次のようなことがわかります。

 

1.     酵素量や不消化物を調べることで消化・吸収能力がわかります。

2.     白血球が出す物質の測定により腸内の炎症の有無や種類がわかります。

3.     善玉腸内細菌の産生する物質を測定し、腸内細菌のバランスを推定します。

4.     腸内の有害物質や発がん物質の量を推定することが出来ます。
  腸内の有害物質や発がん物質は大腸がんのリスクを高めます。

 

このような検査によって、弱点が胃の消化機能にあるのか、小腸の環境なのか、大腸の腸内細菌なのかをかなり正確に知り治療の目標をしぼることが出来ます。また治療の効果を数値的に確かめることが出来ます。食事療法やサプリメントの効果が思ったように上がらない時には一度検討してみてはいかがでしょうか?
 


アンチエイジングを考える
-生きる力は食べる力②-


前回は胃の消化能力や胃の粘膜萎縮の判定方法について説明しました。胃の粘膜萎縮にはピロリ菌感染が関わっていますが、ピロリ菌が起こす変化は単なる胃の粘膜萎縮だけではありません。

ピロリ菌の一部はCagAという遺伝子を持っています。日本人に感染しているピロリ菌のほぼ100%(沖縄県を除く)がCagAたんぱく質を分泌します。CagAたんぱく質がピロリ菌によって細胞内に注入されると、細胞膜の内側にあるセリン/スレオニンキナーゼPAR1と結合します。PAR1は上皮細胞が秩序よく一列に整列をするのを助けているので、CagAの結合により細胞の乱れが生じます。

一方、活性化(リン酸化)されたCagAがチロシンホスファターゼSHP2と結合すると、SHP2が異常に活性化され、細胞の分裂・増殖や運動能力を活発にし、細胞が自死(アポトーシス)するのを抑制します。別の経路で炎症のシグナルも出します。細胞増殖と炎症はがん化の促進因子です。

ピロリ菌と発がんのメカニズムが徐々に明確になってきたために、ピロリ菌の除菌が積極的に推奨されるようになりました。

以前は「食べ物」が大きな要因とされていた胃癌! 実は感染症が大きな原因を占めていたのですね。ピロリ菌だけでなく、いくつかのウイルスや細菌が、がんや動脈硬化の要因や引き金になっているケースがどんどん見つかっています。ワクチンの開発や感染の治療、免疫力の強化や調整、腸内細菌の改善などに取り組むことにより、まだまだ健康寿命の伸びが期待できそうです。