2013年12月14日

血液検査の読み方
-HbA1cとその他の検査-


前回に続き、HbA1cや血糖値を反映するその他の検査について説明します。HbA1cは主に血糖値の平均を反映します。空腹時の検診ではわからなかった食後の血糖値の上昇を感知でき早期の糖尿病の発見につながる素晴らしい検査です。

一方、平均値が同じなら全く違った状態でも同じHbA1c値になってしまうという問題点もあります。

 



図のAさん、Bさんの血糖値の平均はほぼ同じです。でも血糖値の変化には大きな差がありますね。血糖値が急激に上昇すると活性酸素の発生が増えたりミネラルバランスが乱れたりします。血糖値が急激に低下すると交感神経が緊張します。血糖値の細かい変動はHbA1cだけではわかりません。そこで血糖値の変動を知りたい方には自己血糖測定や1,5AG(イチゴー・エージー)という検査があります。

1,5AGは、ぶどう糖に似たポリオール(多価アルコール)で、高血糖では尿中の排泄が増えます。食後血糖値が高い人は1,5AG が低くなり最高血糖値が低めなら1,5AG は高くなります。したがって血糖値の上昇をかなり鋭敏に反映しますし、数日で食事療法の成果をみることが出来ます。

血糖値の変動が少ないほど動脈硬化や神経・腎などの合併症を予防出来ます。血糖平均値がよくなった方は、もう一歩進んで血糖値の変化を少なくしてみましょう。

暮らしに役立つ栄養療法
-良い胆汁酸と悪い胆汁酸-


胆汁に含まれる胆汁酸は、脂肪を乳化させて吸収を助けたり、胃酸で酸性になった食べ物を十二指腸において中和したり、薬品や毒素、金属などの排泄を助けたりとよい働きがたくさんあります。胆汁酸はコレステロールから合成されるので、余分なコレステロールを排泄するのにも役立ちます。

このように本来よい働きを持っている胆汁酸ですが、有害な物質に変わってしまうことがあります。

肝臓で合成された胆汁酸を一次胆汁酸と言います。80%がコール酸、数%がケノデオキシコール酸です。(正確にはコール酸はさらにタウリンやグリシンと結合して排泄されやすい形になっています)。胆汁に含まれて腸管内に排出された胆汁酸の約95%再吸収され肝臓に戻ります。

ところが、ある種の腸内細菌は特殊な酵素を持っていて胆汁酸を変えてしまいます。細菌による変化を受けた胆汁酸を二次胆汁酸といいます。7α-脱水酸化して出来るのがデオキシコール酸、7,12α-脱水酸化によって出来るのがリトコール酸です。とりわけリトコール酸は肝臓に対する毒性が強く、また大腸の発がんにも関係しているとされています。(下図は二次胆汁酸が肝臓の炎症性サイトカインの分泌を増やし肝がんを促進する模式図)

 


二次胆汁酸の割合は腸内細菌の種類や腸内滞留時間、食物繊維との結合などにより左右されます。疫学的な調査で脂肪の多い食事、肉や乳製品の多い食事では大腸がんが増えるという報告があります。脂肪を摂ると胆汁酸の分泌は確かに増えますが、病気の原因はおそらく胆汁酸そのものではなく二次胆汁酸でしょう。二次胆汁酸は腸内環境の悪化と悪玉腸内細菌増加によって増えます。肉や乳製品を摂っても腸内細菌バランスがよければ二次胆汁酸は増えません。

肉を摂りすぎて心配な方は、ぜひ腸内細菌バランスを整えるようにしましょう。

2013年12月11日

栄養療法 基本の「き」
-栄養療法は根本的な原因を改善する-


医学を学んだ方ほど栄養療法やサプリメントは異端というイメージを持っているようです。大きな誤解です。栄養医学でも、西洋医学(つまり科学)で知ることが出来た体の仕組みや病気の原因を基本にして問題を解決しようとしています。使っている原理は同じ、違うのはアプローチの仕方です。

木の根元に病原菌が巣くっているとします。枯れてきた葉っぱや枝を刈り取っても木全体の力は弱り、また新しい場所の枝葉が枯れていきます。人間も同じです。人という一つの大きな代謝システムをイメージしてください。奥の根っこの方に何か不調があったとします。血圧が上がるとか、湿疹が出来たとか、髪の毛が抜けるとか、最近お腹が出てきたとか、血液検査では血糖値やコレステロールが高いとか・・・。これらの異常は表面に出てきた症状であって、一時的に薬で改善しても奥にある問題は解決していません。

栄養療法は根本的な原因を改善することを目的としています。

例えば、生活習慣病といわれる高血圧や糖尿病、高脂血症などの多くは、内臓脂肪の異常な肥大が原因です。内臓脂肪が出す様々なホルモン様物質や炎症のもとになる物質が病気の原因になっています。内臓脂肪を減らすような効果的なやせ方が出来れば、多くの問題が解決します。内臓脂肪を増やすのはインスリン、インスリンの分泌を増やすのは血糖値の上昇、だから血糖値を上げないようなものを食べよう! という具合です。

実際に、要点をしぼって食事療法をしていただくと本人も驚くほど短期間で効果があがります。体は体の理論通り正直に変化するので当たり前といえば当たり前です。栄養療法では当たり前の体の働きに注目してそれを少しだけ後押ししています。

様々な病気に対して栄養療法は根本的な原因を診断してアプローチしています。その結果、薬を使わず本来持っている体の働きを利用して目覚ましい効果をあげているのです。


2013年10月19日

血液検査の読み方
-ヘモグロビン・エーワンシー(HbA1c)-


以前は空腹時の血糖値しか測らないことが多かった検診で、最近ではHbA1cの測定を始めています。HbA1cは糖尿病を診断する値です

糖尿病では初期には空腹時の血糖値が正常のことが多く、食後の血糖上昇を早期の段階で発見することが出来ませんでした。食後の血糖急上昇は動脈硬化や糖尿病合併症への影響が強いためHbA1c測定の普及により、より早い段階で食事療法を開始し合併症を予防することが可能になります。

というわけで、今回はヘモグロビン・エーワンシー(HbA1c)の話です。

ヘモグロビンは赤血球の中に存在する酸素を運ぶたんぱく質です。大人のヘモグロビンの約97%をしめるHbAβN末端がぶどう糖と結びついたものをHbA1cと呼びます。

ヘモグロビンとぶどう糖の結合は酵素を必要としない化学反応です。血液中のぶどう糖の濃度が高いほど結びつく割合が高くなります。ですから、HbA1cは血液中のぶどう糖の濃度(血糖値)の平均値を反映します。

赤血球の寿命は約120日です。一度出来たHbA1cは安定していて変化しにくいので、血糖値が下がっても新しいヘモグロビンと入れ替わるまではHbA1cがなかなか下がりません。HbA1c値が血糖の変化を反映するまで1~2カ月かかります。ですから、薬や食事療法で血糖値が急激に下がった場合には、HbA1cを目安に薬を調節すると血糖を下げ過ぎることがあります。その場合には毎日の血糖値を測定するのが一番確実です。

HbA1cはあくまで平均値を反映したものですから、血糖値の変動についてはわかりません。ずっと高い方と急上昇急降下を繰り返す方で同じHbA1c値になることがあります。まず入り口としては血糖の平均値を知り、それから血糖の変動幅について注意してみましょう。次回はHbA1cと血糖の変動について、それからHbA1c以外の糖尿病指標についてもう少し詳しく見ていきましょう。

*註:201241日よりHbA1cが国際標準値に切り替わりました。検査結果にNGSPと書いてあれば国際標準値、JDSと書いてあれば以前日本で使用していた値です。NGSPJDSより約0.4%高めですので、以前の結果と比べる時には注意してください。

消化器系総合検査(CDSA2.0)


栄養療法の実践やお手伝いをしていると、胃や腸の状態はとても大切だなと思います。せっかくよいものを食べ、サプリメントで栄養素を摂っても吸収されなければ効果を発揮できません。消化されず腸管内に留まった食べ物が発酵などの変化を経て害を及ぼすことさえあります。

そこで、消化管の状態をもっと正確に知りたい! という欲求が出てきます。症状から推定するだけでは物足りないという方のために有用な検査があります。ひめのともみクリニックで採用しているのはGenova Diagnostics社の消化器系総合検査(CDSA 2.0)です。

便の検査なので自宅で指定容器に入れて持参いただく方式です。

この検査では次のようなことがわかります。

 

1.     酵素量や不消化物を調べることで消化・吸収能力がわかります。

2.     白血球が出す物質の測定により腸内の炎症の有無や種類がわかります。

3.     善玉腸内細菌の産生する物質を測定し、腸内細菌のバランスを推定します。

4.     腸内の有害物質や発がん物質の量を推定することが出来ます。
  腸内の有害物質や発がん物質は大腸がんのリスクを高めます。

 

このような検査によって、弱点が胃の消化機能にあるのか、小腸の環境なのか、大腸の腸内細菌なのかをかなり正確に知り治療の目標をしぼることが出来ます。また治療の効果を数値的に確かめることが出来ます。食事療法やサプリメントの効果が思ったように上がらない時には一度検討してみてはいかがでしょうか?
 


アンチエイジングを考える
-生きる力は食べる力②-


前回は胃の消化能力や胃の粘膜萎縮の判定方法について説明しました。胃の粘膜萎縮にはピロリ菌感染が関わっていますが、ピロリ菌が起こす変化は単なる胃の粘膜萎縮だけではありません。

ピロリ菌の一部はCagAという遺伝子を持っています。日本人に感染しているピロリ菌のほぼ100%(沖縄県を除く)がCagAたんぱく質を分泌します。CagAたんぱく質がピロリ菌によって細胞内に注入されると、細胞膜の内側にあるセリン/スレオニンキナーゼPAR1と結合します。PAR1は上皮細胞が秩序よく一列に整列をするのを助けているので、CagAの結合により細胞の乱れが生じます。

一方、活性化(リン酸化)されたCagAがチロシンホスファターゼSHP2と結合すると、SHP2が異常に活性化され、細胞の分裂・増殖や運動能力を活発にし、細胞が自死(アポトーシス)するのを抑制します。別の経路で炎症のシグナルも出します。細胞増殖と炎症はがん化の促進因子です。

ピロリ菌と発がんのメカニズムが徐々に明確になってきたために、ピロリ菌の除菌が積極的に推奨されるようになりました。

以前は「食べ物」が大きな要因とされていた胃癌! 実は感染症が大きな原因を占めていたのですね。ピロリ菌だけでなく、いくつかのウイルスや細菌が、がんや動脈硬化の要因や引き金になっているケースがどんどん見つかっています。ワクチンの開発や感染の治療、免疫力の強化や調整、腸内細菌の改善などに取り組むことにより、まだまだ健康寿命の伸びが期待できそうです。


2013年9月25日

血液検査の読み方
-間接ビリルビン-


今回は間接ビリルビンの話です。でも検診の結果や病院の血液検査の結果には間接ビリルビンの項目はありません。

間接ビリルビン=総ビリルビン-直接ビリルビン 

の計算式で自分で計算してください。

間接ビリルビンとは何でしょうか? 赤血球はある寿命で壊れ、中のヘモグロビンは分解されます。ヘモグロビンのうち、鉄と結合するヘム構造が分解されてできた物質が間接ビリルビンです。間接ビリルビンは水に溶けにくく、肝臓で抱合されて溶けやすい形になって排泄されます。抱合されたビリルビンを直接ビリルビンと呼びます。間接ビリルビンは非抱合ビリルビンとも言います。

なんだか話が難しくなってきましたが、直接ビリルビンが上昇する病気は肝臓や胆のうの病気です。胆汁の流れが悪くなっている場合と思ってよいでしょう。間接ビリルビンが上昇した時には赤血球がたくさん壊れていることを意味します。血液を攻撃する免疫的な病気、細胞膜を守る膜たんぱく質の異常のほか、激しい運動で機械的な振動が強かったり運動に伴う活性酸素の発生が多い場合にも赤血球が壊れやすくなります。

赤血球の合成能力が正常の場合には、壊れた分の赤血球がどんどん作られるので網状赤血球の割合が増えます。網状赤血球は生まれたばかりの赤血球です。

赤血球は酸素を運ぶので活性酸素の攻撃を受けやすい細胞です。活性酸素から細胞膜を守るには細胞膜に脂溶性の抗酸化ビタミン(例えばビタミンEなど)をいきわたらせるのが効果的です。出来た活性酸素をすぐに消去してくれます。一般に運動は体によいと思われていますが、激しい運動を行って活性酸素の防御をしないと体や細胞を傷める原因となります。間接ビリルビンは活性酸素の防御能力を知る一つの手がかりになるでしょう。
 
 

ビタミンD濃度の測定


25(OH)ビタミンD濃度がひめのともみクリニックでも測定できるようになります。自費の検査ですが25(OH)ビタミンD濃度が測定出来るとビタミンD欠乏の有無がかなりはっきり診断できるようになります。

ビタミンDの検査には1,25(OH)2ビタミンD濃度もあります。この2種類の数値が意味するところはかなり違います。どのように違うの? という方のために少し解説します。

ビタミンDがカルシウムと協調して骨の強化に働くことは皆さんよくご存知だと思います。小腸や腎臓でのカルシウムを促進し、骨の細胞(破骨細胞など)に直接働きかけて骨のリモデリング(骨の破壊と再構築により骨の形や強度を維持すること)を正常化します。成長期のビタミンD欠乏による骨の変形はくる病と呼ばれています。また閉経後の女性や高齢者においてビタミンDが欠乏すると骨粗鬆症になりやすくなります。

ビタミンDはビタミンという名前がついていますが、核の中にある受容体に結合して遺伝子に直接働きかけます。ホルモンと似た作用です。ホルモンと似て遺伝子に直接働きかけるのですから、食べた量や血液中の量にその都度左右されると困ります。そこで活性化という 段階を経て働きます。1,25(OH)2ビタミンDは骨に働くように活性化された形ですから、よっぽどのことがないと濃度は一定です。ですから1,25(OH)2ビタミンD濃度を測定しても、ビタミンD欠乏かどうかはわかりません。

そこで25(OH)ビタミンD濃度の登場です。25(OH)ビタミンD濃度はビタミンDが肝臓で一段階活性化されて出来ます。最も活性を持つ1,25(OH)2ビタミンDの一つ前の段階です。 

ビタミンDにはカルシウムに関係ない作用もあります。例えばがん細胞の増殖抑制を抑制したり正常な分化を誘導したり、副甲状腺ホルモンの産生を調節したりします。発毛や免疫の調節作用もあります。ビタミンDの欠乏の有無によって骨以外に対する作用はおおいに変化します。またビタミンDサプリメントがどれだけ必要かの判定や飲んだ効果の判定にも役立ちます。ビタミンD不足が気になる方はぜひ25(OH)ビタミンD濃度の測定をご利用ください。