2010年5月1日

食事療法の嘘?本当?
-痛風とプリン体-

 高尿酸血症は血液中の尿酸が異常に高くなった状態です。痛風発作(痛風発作は尿酸が高い時だけでなく急に濃度が変わったときにも起こります)のほか動脈硬化や腎障害の原因になります。

 尿酸が高いと「プリン体」はだめと言われたことはありませんか? プリン体とはレバーや魚介類の干物や内臓などに多く含まれている核酸(DNA、RNA)の成分のことです。

 ところが、体内の合成量の方が多いため尿酸値は食べるプリン体の量にほとんど関係しないことがわかっています。尿酸が上昇する理由は主に三つわかっています。

  核酸を再利用・代謝するのに必要なビタミンB12や葉酸、ビタミンCの不足

  酸化ストレスの増大、

  インスリンの過剰分泌

 意外に思われるかもしれませんが、自分の生活にあてはめるとうなずけるのではありませんか? ビールや日本酒を飲み過ぎた時、ストレスが多かった時、食生活が乱れ体重が増えた時に尿酸値が上昇していませんか。メタボリック症候群とも深い関係があります。

 運動の後に、痛風発作が起こることもよくあります。これは、筋肉が過剰な運動をしたときに「乳酸」が急激に増えて処理しきれず尿に排泄され尿が酸性に傾いて尿酸の尿中排泄が阻害されること、酸化ストレスが増えて尿酸の産生そのものが増えることが重なることにより起こります。

 尿酸値が高いと言われたら、プリン体を減らすのではなく急激な運動・糖質やアルコールの摂取・酸化ストレスを避けて下さいね。(ちなみにプリン体ではなく砂糖たっぷりのプリン(プディング)はやっぱりやめておいたほうがよさそうです)。

 

鉄の話 ③


貧血と鉄欠乏について~鉄欠乏の診断~

 前回は鉄が欠乏するといかに悲惨な症状が出現するかという話をしました。鉄が足りないのではと感じている女性は多いのですが「検査をしたら貧血ではなかったので鉄欠乏ではないと思います」とおっしゃる女性が多いのです。

「貧血でなければ鉄欠乏ではない」というのは本当でしょうか?

 酸素は生きるために最も重要です。体は酸素運搬の赤血球(ヘモグロビン)を最優先で作り続けます。赤血球でさえ十分に作ることが出来ないほど鉄が枯渇して初めて「貧血」になります。貯蔵鉄が本来の必要量を切ると、生命維持に不必要な部分から切り捨てていきます。たとえば「肌が荒れる」「抵抗力が落ちる」「情緒不安定」「冷え性」「不妊症」などは貧血がない人でも起こる鉄欠乏の症状です。

 貯蔵鉄の量を反映するのは血液中の「フェリチン」という値です。体に異常がない状態ではフェリチンは貯蔵鉄に比例します。ただし、貯蔵鉄を含んだ細胞が壊れると血液中のフェリチンも上昇しますので注意が必要です。

 フェリチンの目標値は100から125の間ぐらいです。閉経前の女のフェリチンを測ってみるとほとんどの方が40未満です。つまりほとんどの方が潜在性鉄欠乏症だということになります。また最近は食生活の変化に伴い男性の鉄欠乏も増えてきました。

 まずは自分が鉄欠乏であることに気づくこと!そこから治療が始まります。鉄は「イオン鉄」より「ヘム鉄」の吸収がよいのでぜひ「ヘム鉄」の形での摂取をお勧めします。また、鉄の吸収や運搬にはたんぱく質が必要です。「たんぱく質とヘム鉄」の同時摂取で健康な明日を創りましょう。
 

「効果がなければ栄養療法とは言わない」


「効果がなければ栄養療法とは言わない」

 今回はこんな過激なフレーズで始めてみました!栄養療法では治療の効果が出るまで量を調節するので当たり前といえば当たり前です。

 ただし「効果」という言葉は人によってとらえ方が違うのではないでしょうか。

 高血圧の薬の評価は「どれだけ血圧が下がったか」で行います。糖尿病の薬の評価も「どれだけ血糖値が下がったか」を指標にしますね。栄養療法の場合にも数値で評価できるものがたくさんあります。「機能」や「酸化指数」、「栄養素の量や貯蔵の程度」を数値化することが出来、実際に効果の評価にも使っています。

 しかし、栄養療法はもっともっと深い意味の効果を考えています。

 そもそも病気はなぜ起こるのでしょうか。一つは「本来ある機能が損なわれたり衰えたりする」ためです。「調節機能」の異常が「高血圧や糖尿病」としてあらわれ、神経伝達物質の量や調節の低下が「うつ病」としてあらわれます。老化とともに肺や心臓の機能が衰えたりするのもそうですね。また「体が傷つくこと」が動脈硬化や癌の発症のきっかけになります。

 これは「体がもつ抗酸化や修復機能の衰え」と言い換えることも出来ます。「認知症」などは「神経機能の衰え」と「細胞や組織の傷害」が複合して発症すると考えられます。

 病気の治療をする時に、表面に現れた現象 だけを改善するのではなく、原因となっている機能低下や調節の乱れを改善するのが「栄養療法」の考え方です。効果が出るまでに時間がかかりますが「根本原因に対する治療」を行うことが出来ます。うまくいけば薬をやめることも出来るようになります。

 栄養療法の診断や効果-特に個人差については、詳しく説明しなければならない問題がたくさんあります。また次からのコラムでご紹介していきますね。

「医療は科学に基づいた芸術である」

Sir William Osler1849–1919))